歴史学者の伊藤隆氏に関する記事である。筆者は存じ上げないのだが、近現代史研究に実証的手法を開拓した先生だったそうだ。
国語辞典で、「実証的」を引いてみる。「確かな証拠に基づいて研究を進める様子」とある。記事は、先生の研究方法をこう記す。
一次史料(日記、書簡、書類など)の発掘と当事者への聞き取り調査を徹底し、同時代の全体状況を踏まえて読み込むことで、(途中省略)「当時そうであった」状況を知ることを可能にした。
記事は一次史料の重要性について、こうも述べる。
人は、どうしても過去の自分を美化しがちである。(途中省略)
結果を知らないうちに書いた日記、手紙、業務日誌や書類、当時刊行された新聞、雑誌、書籍、当時の画像、録音は歴史研究では必須の史料である。
伊藤先生は史料を発掘しながら、聞き取りも徹底されたそうだ。
この手法は、澤地久枝氏や半藤一利氏、保阪正康さんなど昭和史研究の第一人者と同じである。澤地久枝著『記録ミッドウェー海戦』は、一次史料の塊である。

記録 ミッドウェー海戦 (ちくま学芸文庫 サ-52-1) - 澤地 久枝
NHKスペシャル「新ドキュメント太平洋戦争」も、一次史料に徹した番組だ。個人の日記や手記などをベースに構成されている。市井の人々の暮らしぶりや思いが、伝わってくる。良い番組と思う。
前述した一次史料について、鹿児島の昭和史を考えてみる。
「鹿児島女子興業学校学務日誌」が発見された記事があった。その日誌は、明らかに一次史料である。その日誌は3年前に発見されたのだが、南日本新聞が今年に報じた記事によると、研究はいっこうに進んでいないらしい。
鹿児島市は、昭和史に興味がないらしい。これが島津氏や明治維新で活躍した人物であれば、即対応するだろうに。
伊藤先生は、「当事者への聞き取り調査を徹底」されたと記事にある。鹿児島の空襲体験に思いを馳せる。かなり困難な時代になった。このことは、以前から指摘されていたのだが、今や現実となった。
伊藤先生は、「同時代の全体状況を踏まえて」一次史料を読み込んだそうだ。戦争体験談を読むとき、伊藤先生の手法が有効だと思う。だが、かなり面倒な作業になる。
朝日新聞の「近現代史、実証的手法で開拓」を読みながら考えた。
■参考文献
「近現代史、実証的手法で開拓」2024年9月13日付朝日新聞
『記録ミッドウェー海戦』澤地久枝・ちくま学芸文庫・2023年)