2024年11月26日

フィルターバブル

 兵庫県知事選は、メディアにとってかなり意外な結果だったようだ。投票日以後、新聞各紙は連日にわたって報道している。
議会から不信任を受け辞職したにもかかわらず当選するとは…と言いたげだ。
しかし、斎藤氏は2位に大差をつけて当選。
各新聞は、独自に分析した記事を連日にわたって報道している。そこに共通する言葉がある。「フィルターバブル」である。

 今月19日付朝日新聞の「天声人語」を引用する。

 何を参考に票を投じたのかと、NHKが出口調査で尋ねたところ、最も多かった答えは「SNSや動画サイト」(30%)。「新聞」も「テレビ」(各24%)も及ばなかった。メディアにとっては悲しく、深刻な数字である。

 斎藤氏が再選された要因のひとつに、SNS上で真偽不明の情報拡散を挙げている。
各紙の報道に目を通していくと、「SNSは、自分好みの情報に偏る危険性がある」と展開していく。「フィルターバブル」である。
こうした傾向は、ネット時代に限った現象だろうか? 疑問を抱くと同時に、清沢洌の評論「現代ジャーナリズムの批判」を思い出した。

現代ジャーナリズムの批判
 外交評論家の清沢洌が、1934(昭和9)年7月10日の講演を活字化した評論である。

清沢洌評論集 (岩波文庫 青 178-2) - 清沢 洌, 山本 義彦
清沢洌評論集 (岩波文庫 青 178-2) - 清沢 洌, 山本 義彦

 元来人間というものは自分のかつて考えておることを他人に依って裏書されることを好むものであります。そういうものを五十銭なり一円也を払って読む興味も感じないし、無論これを排撃する。平生自分が考えておることを、新聞だとか雑誌だとかに依って裏書きされることを多くの読者は欲するのであります。

 今から90年前に、講演された内容の一部分である。
フィルターバブルの要素は、昭和の初めにあったと良いかもしれない。また、情報の接し方は90年前の人々と殆ど変わらないと言ってもいいかもしれない。
兵庫県知事選の記事だけでなく、新聞週間になると、各紙はSNS上の情報は信頼に足りないとステレオタイプの如く報道する。
 
 インターネット環境が整備されたことで、個人が情報発信できる時代になった。これまで、メディアが一方的に情報提供していた時代と異なる。SNS上に玉石混交のサイトが数多ある。メディアは、玉の発掘を行う必要があると思う。在野には、とんでもなく専門性を有する人がいるものである。
既存メディアは、これまで以上に記事の正確性を問われることになると思う。
 
 来年は終戦から80年経つ。新聞もそのことに触れている。
各紙がどのように伝えるか、筆者は心待ちにしているところである。
 


参考文献
 「天声人語」2024年11月19日付朝日新聞
 「春秋」2024年11月19日付日本経済新聞
 「兵庫知事に斎藤氏再選」(2024年11月19日付毎日新聞・社説)
 「兵庫県知事選 真偽不明の情報が拡散した」(2024年11月19日付讀賣新聞・社説)
 「民意のゆくえ」2024年11月21日付朝日新聞
 「SNS有権者を分析」(2024年11月19日付毎日新聞)
 「現代ジャーナリズムの批判」(『清沢洌評論集・2013年・岩波文庫』
 「報道畑45年「事実」に切り込む」(2022年12月20日付朝日新聞・文化)
posted by 山川かんきつ at 10:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月20日

ファクトチェック

 「ファクトチェック」なる言葉を久しぶりに見た。今月3日付毎日新聞の「なるほドリワイド」である。

 アメリカ大統領にトランプ氏が就任すると、「ポストトゥルース」とともに新聞紙面を賑わせていた。その後、バイデン氏就任とともに両言葉を目にしなくなった。
「ポストトゥルース」と「ファクトチェック」の意味を咀嚼しないまま。
トランプ氏が再選された。二つの言葉を目にする機会があるかもしれない。

 毎日新聞の記事によると、「ファクトチェック」は、影響力が大きい政治家の発言や政府の発表、メディアの報道の検証も重視するらしい。
チェックのやり方は3つ。
 客観的な証拠に基づいて検証。
 真実性や正確性のレベルを分かりやすく伝える。
 情報源の資料を明示する。

 同記事は、次のように結ぶ。

 メディアの報道内容への信頼も両極化する傾向は、米国に限らず先進国で広がりつつある。純粋に事実か否かを判定するファクトチェックのような取り組みがさらに重要になるだろう。

 テレビニュースや新聞などの報道に接していると、「?」違和感をおぼえることがある。
とくに、太平洋戦争中の空襲に関する記事に接していると、「?」と思うことが多い。

 ファクトチェックについて、詳しく述べた1冊がある。岩波ブックレットの『ファクトチェックは何か』に目を通した。

ファクトチェックとは何か (岩波ブックレット) - 立岩 陽一郎, 楊井 人文
ファクトチェックとは何か (岩波ブックレット) - 立岩 陽一郎, 楊井 人文

 同書によると、ファクトチェックは、「ニュース性」よりも「事実」に着目するそうだ。
すでに公表された言説を前提に、その言説の内容が正確かどうかを第三者が事後的に調査し、検証した結果を発表する営みです。

 同書は、こうも述べる。
 事件報道の多くが警察、検察の一方的な発表やリークによって新聞、テレビで伝えられ、必ずしも事実とは言えない情報が広がる問題は、これまでも指摘されています。(途中省略)私たちもそれを疑うことなく受け入れています。

 ここまで読んでいて、鹿児島市の空襲を考えた。公式資料とされる『鹿児島市史第2巻』と『鹿児島戦災復興誌』によると、同市の空襲は8回あったそうだ。だが、地元メディアは、空襲について偏った報道をするのみである。
毎年6月17日になると、「鹿児島大空襲」と題して地元メディアは一斉に報じる。
『鹿児島市史第2巻』と『鹿児島市戦災復興誌』の記述そのままに。史の発行は、昭和45(1970)年。半世紀を超えて、両書の記述はそのままに・・・。

 両書に記された昭和20年3月18日、4月8日、5月12日、6月17日の空襲の内容を、米軍と日本海軍の資料で検討してみた。かなり食い違っている。
3月18日、4月8日、5月12日の空襲に関して、当ブログで大雑把に記した。ファクトチェックを意識したわけではないが、違和感をおぼえたために触れたところである。

 もし、ファクトチェックに関心のある方があったならば、各地の空襲について調べると良いかと思う。これまで常識とされてきた記述を、見直す必要を感じるかもしれない。

参考文献
「なるほドリワイド」毎日新聞2024年11月3日付
『ファクトチェックとは何か』(立岩陽一郎・楊井人文・岩波ブックレット982 2018年)
posted by 山川かんきつ at 22:56| Comment(0) | 鹿児島と戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月13日

二中通りの事故現場

 昨日の朝、二中通りバス停前にあるタイヨーの前を歩くと、テレビ局の取材班が2組いた。何の取材だろうと訝しがっていると、同僚が事故の話をしだした。
昨日の夕方、大きな交通事故があったらしい。車が歩道にまで乗り上げるほどの。

 勤務先は、事故現場にほど近い所にある。現場は、筆者にとって日常の詰まった所でもある。地元放送局のサイトで、事故の報道をみる。
大破した車が歩道に乗り上げている。映像をみると、大変な修羅場となっている。
その日、筆者は出先から帰宅したため事故現場を目撃していない。

 事故の発生は、午後6時前。帰宅を急ぐ人も多かったろう。現場には、バス停がある。そこにも、少なくない人たちがいただろうに。事故の様子を、つぶさに見ていた人もいるかもしれない。

 現場となった交差点は、6車線もある。横断歩道を渡る人を待っていると、信号が変わり始める。また、救急病院が近くにできたため、救急車も頻繁に走って来る。そのため、交差点を右左折できる車は、数台ということもしばしばある。信号待ちが長く感じられ、イライラすることがある。
そのため、車を運転する際は、同交差点を使わぬようにしている。

 ひょっとしたら、事故を起こした運転手さんは、そうした心理が働いたかもしれない。
報道によると、アクセルとブレーキを踏み間違ったらしい。事故を起こした原因は、年齢も起因しているかもしれないが、帰宅を急ぐ気持ちとイライラがあったかもしれない。

 報道を見ていて、日常の風景が一瞬にして修羅場と化す。その不思議さを考えた。
posted by 山川かんきつ at 07:46| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする