議会から不信任を受け辞職したにもかかわらず当選するとは…と言いたげだ。
しかし、斎藤氏は2位に大差をつけて当選。
各新聞は、独自に分析した記事を連日にわたって報道している。そこに共通する言葉がある。「フィルターバブル」である。
今月19日付朝日新聞の「天声人語」を引用する。
何を参考に票を投じたのかと、NHKが出口調査で尋ねたところ、最も多かった答えは「SNSや動画サイト」(30%)。「新聞」も「テレビ」(各24%)も及ばなかった。メディアにとっては悲しく、深刻な数字である。
斎藤氏が再選された要因のひとつに、SNS上で真偽不明の情報拡散を挙げている。
各紙の報道に目を通していくと、「SNSは、自分好みの情報に偏る危険性がある」と展開していく。「フィルターバブル」である。
こうした傾向は、ネット時代に限った現象だろうか? 疑問を抱くと同時に、清沢洌の評論「現代ジャーナリズムの批判」を思い出した。
■現代ジャーナリズムの批判
外交評論家の清沢洌が、1934(昭和9)年7月10日の講演を活字化した評論である。

清沢洌評論集 (岩波文庫 青 178-2) - 清沢 洌, 山本 義彦
元来人間というものは自分のかつて考えておることを他人に依って裏書されることを好むものであります。そういうものを五十銭なり一円也を払って読む興味も感じないし、無論これを排撃する。平生自分が考えておることを、新聞だとか雑誌だとかに依って裏書きされることを多くの読者は欲するのであります。
今から90年前に、講演された内容の一部分である。
フィルターバブルの要素は、昭和の初めにあったと良いかもしれない。また、情報の接し方は90年前の人々と殆ど変わらないと言ってもいいかもしれない。
兵庫県知事選の記事だけでなく、新聞週間になると、各紙はSNS上の情報は信頼に足りないとステレオタイプの如く報道する。
インターネット環境が整備されたことで、個人が情報発信できる時代になった。これまで、メディアが一方的に情報提供していた時代と異なる。SNS上に玉石混交のサイトが数多ある。メディアは、玉の発掘を行う必要があると思う。在野には、とんでもなく専門性を有する人がいるものである。
既存メディアは、これまで以上に記事の正確性を問われることになると思う。
来年は終戦から80年経つ。新聞もそのことに触れている。
各紙がどのように伝えるか、筆者は心待ちにしているところである。
■参考文献
「天声人語」2024年11月19日付朝日新聞
「春秋」2024年11月19日付日本経済新聞
「兵庫知事に斎藤氏再選」(2024年11月19日付毎日新聞・社説)
「兵庫県知事選 真偽不明の情報が拡散した」(2024年11月19日付讀賣新聞・社説)
「民意のゆくえ」2024年11月21日付朝日新聞
「SNS有権者を分析」(2024年11月19日付毎日新聞)
「現代ジャーナリズムの批判」(『清沢洌評論集・2013年・岩波文庫』
「報道畑45年「事実」に切り込む」(2022年12月20日付朝日新聞・文化)