最近の新聞を読んでいると、「陰謀論」に関する記事を目にするようになった。毎日新聞が6月4日から6月6日まで、3回にわたって陰謀論に関する記事を連載した。「見る探る 陰謀論の思考とは」である。記事を書いたのは、若い女性記者のようだ。
ワクチン反対集会やワクチン反対派の厚生労働省前でのチラシ配布、「Jアノン」のデモなどに、記者は参加し取材している。
陰謀論には政府やメディア、議会といった制度に対する不信感があるらしい。
ワクチン反対派や陰謀論者は、自分たちこそが「真実」に覚醒していて、一般人は政府やメディアに操られている「気づいていない人たち」と信じているそうだ。
また、やっかいなことがあるらしい。それは、陰謀論や偽情報を嘘と知りながら意図的に発信・拡散する人の存在である。動機に、サイトのアクセス稼ぎや金もうけ、政治的影響力の拡大などがあるそうだ。
4月30日付の朝日新聞に、「かすむリアル」と題した連載がある。やはり、「陰謀論」に関する記事である。保守系のある県議会議員が、議会報告の冊子に陰謀論を記しているそうである。記者がその議員に取材したところ、全国から励ましや絶賛が多いとのこと。記事から察するに、本人は大いに満足しているようである。
陰謀論者の主張を各新聞記事を読んだが、筆者には意味が分からない。筆者は中学生の頃に、「月刊ムー」を愛読していた。そのためであろうか、陰謀論に対して抗体ができているようだ。また、興味を持てないのも大きく影響しているようだ。
さて、陰謀論である。現代だけでなく、戦時中の日本でも流行っていたようである。
■フリー・メーソンとユダヤ
戦時中の日本に、ユダヤ人やフリーメーソンの謀略といった陰謀論が流布していたようである。清沢洌が『暗黒日記』に記している。そこには、当時の新聞記事も貼られている。
昭和18年6月20日から昭和19年12月17日にかけて、フリーメーソンやユダヤの陰謀に関する記述がある。興味のある方は、同書を読まれるとよい。清沢はバカげた論考としながらも、記録を残してくれている。今回は、記述の一部を紹介する。
昭和19年1月20日(木)
■戦争風邪も猶大謀略 毒牙粉砕の大講演会
世界征服の野望を他民族の血の犠牲によって獲得しようと毒牙を磨くユダヤの陰謀こそは一億国民が瞬時も忘れてはならぬ、大戦争が重大な段階に入らんとする現在われらは分散しつつ脈絡あるユダヤ人の執拗なこの謀略をよく認識すべきだと(以下省略)
医道維新報国会が、「ユダヤ謀略講演会」を1月23日に中央農業会講堂で行う旨の記事である。そこには、ユダヤ問題の権威とされる4人の名前が記されている。権威者の一人、秋田子爵が面白いことを述べている。
私の担当はユダヤの医学講演で、ユダヤ人医師は次から次へと病気を造って世界へバラ撒いてゐる、こんどのイギリス風邪とかチャーチル風邪もユダヤの製造に違ひなく、彼らは現在借家人の癖に大家の米英も毒殺し併せて世界中をやっつけてユダヤの天下を築かうといふ魂胆だ。これを断乎として叩き潰すのは日本人の強さあるのみです。
清沢は、昭和19年1月22日(土)に記す。
「戦争もカゼもユダヤ人の謀略である旨、ユダヤ研究家が発表している。これが「昭和日本」の知識標準だ。」
もうひとつ。昭和19年7月12日に毎日新聞の記事を掲載している。「ユダヤの抱く野望」である。清沢は記す。
『毎日新聞』に白鳥敏夫の論文あり。例のユダヤ主義議論である。こうした精神的人物が指導者なのだから、この戦争がうまくいくはずなし。
白鳥敏夫は、戦後の東京裁判でA級戦犯として起訴されている。保阪正康さんの著作によると、白鳥は靖国神社に祀られたそうである。それは昭和天皇が同社を訪れぬ理由にもなっているそうである。ただ、筆者はまだ白鳥についてよく分らぬ。中途半端であるが、記述はここまでにする。清沢の日記に貼付された新聞記事にはこうある。
米国の指導者といへば人も知る限り金権財閥即ちユダヤおよびフリーメーソンの手合である。(途中省略)ユダヤの理想の世界といふのはさういふ独裁権を握って力をもって非ユダヤ民族を制圧すると共に、彼等が投機によって儲けた二百数十億ドルの金をもってユダヤ貨幣を発行し、これで経済、財政的にも世界を制圧して行く、そして最終の段階においてはエホバの神を宇宙絶対の神に祭り上げて全人類にこれを拝ませ、ユダヤ王を地上に君臨せしめるにある、これはユダヤのシオン長老の永年の野望である。
かく見て来るとユダヤの非望といふものが如何に日本の国体の本義、即ち八紘一宇の皇謨と相反するものであるかといふことが判る。
フリーメーソンやユダヤについて、全国に行き渡っていたようである。『暗黒日記』の昭和19年3月14日で、清沢はこう記している。
ユダヤ人問題、フリーメーソン問題については北海道の浦河においても質問が出た。その宣伝が行き渡っている証拠だ。雑誌を出したり、講演をしたり、どこからか運動費の出ているのを示すものだ。
また、昭和19年12月17日の日記が記すところによると、新刊本が大量に出版されたようである。
近頃、新著沢山買入る。その中に武田誠吾なる者の『新聞とユダヤ人』なる一書あり。世界において斯る愚劣なる書籍が、店頭をかざる国ありや。この国民の知識を引あぐることは絶望的な仕事だ。
現在の新聞で取り上げられる「陰謀論」。戦時中にもあった。清沢洌が日記に書き留めてくれたおかげで、知ることができた。昭和18年から19年にかけて、各地の戦闘で米軍に敗け始めたころと重なる。昭和19年はサイパンを失っている。陰謀論が流布した根底には、社会不安や個人の不安感だけでなく、国民の目をそらせようとする目的もあったかもしれない。この辺について、もっとよく調べる必要がある。清沢洌の『暗黒日記』は、やはり良い史料である。
■参考文献
『毎日新聞 見る探る』(2021年6月4日から6月6日付)
『朝日新聞 かすむリアル』(2021年4月30日付)
『暗黒日記』(清沢洌 評論社・昭和54年)
2021年06月06日
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