2024年09月15日

呉鎮ふたたび

 今年7月23日付毎日新聞の記事に目がとまった。
元「軍都」呉に防衛拠点計画 閉鎖の日鉄跡地 経済界「大賛成」

 リード文は記す。

 海上自衛隊の基地がある広島県呉市で、防衛省が新たに大規模な防衛拠点の整備を計画している。地元では、地域経済の低迷を背景に歓迎ムードが高まる一方で、自衛隊の活動拠点の拡大に懸念の声もある。戦艦大和が建造されるなど、戦前は「東洋一の軍港」と呼ばれた呉市は、戦後に重工業都市へと転じて発展を遂げた。終戦から80年を前に、かつての軍都は再び転換点を迎えている。

 日本製鉄瀬戸内製鉄所跡地に、防衛省が大規模な防衛拠点の整備を計画しているらしい。
防衛省地方協力局の総務課長が、今年3月11日に呉市議会で次のような説明をおこなった。

 呉地区は米軍佐世保基地や岩国基地に近く、太平洋、日本海、南西方面へのアクセスが容易な非常に重要な場所にある。この地区に多機能な複合防衛拠点を整備したい。

 聞きなれぬ言葉、「複合防衛拠点」とはなんぞや? 記事は次のように説明する。

 複合防衛拠点とは、装備品の維持整備・製造拠点、防災拠点や部隊の活動基盤、岸壁を利用した港湾機能―の三つの機能を一体的に備えているという。

 呉地区に敷地はいうまでもなく、港湾施設や製造業社などすべてが揃っているらしい。
地元経済界の会頭の談話が掲載されている。

 (呉市にとって)光明どころじゃない。大賛成しなければいけない案だ。

 呉市の人口は、ここ15年間で約4万人減少。呉鎮守府があった1943年に、同市の人口は40万人を突破したそうだ。海上自衛隊呉地方隊は約1万人の隊員を抱えているらしい。1万人分の消費活動は無視できない。経済界が歓迎する気持ちは、よくわかる。人口減少に悩む地方経済にとって、防衛整備は光明にもみえる。背に腹は代えられない。
鹿児島県でも防衛施設の整備が進む。同県は南西諸島防衛の最前線といったところだ。ここでも呉市と似た背景をもつ。

呉鎮守府
 呉市の防衛拠点化計画に、複雑な思いをよせる人々もいる。記事は、戦争体験者の声を掲載している。思いを吐露したのは、91歳の女性である。

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彼女は空襲の記憶を鮮明にもっているそうだ。郊外の高台にあった自宅から無数の焼夷弾が市街地に降り注ぐ光景を目撃。街は一晩中燃え続けたという。

「呉に軍事施設があったから狙われた。二度とあんなことが起こってはいけない」と、彼女は述べる。戦争体験をもつ人たちは、記憶がよみがえるのだろう。

 先月25日放送の「NNNドキュメント 戦前リアル」をみた。アメリカのシンクタンクによるシミュレーションで、日本国内の米軍基地も中国の攻撃を受ける可能性が高いと指摘した。

 防衛拠点整備によって、地元経済が活性化すると期待する気持ちもよく分かる。また、戦争体験者が危惧する気持ちもよく分かる。広島県や呉市の人たちは、悩ましい問題を抱えることになるかもしれない。さまざまな思いをもつ人たちが、意見交換できる場が必要だろう。

 防衛拠点整備が「国策」の意味を含みだすと、一気に話がすすむ。そこに議論の場はない。鹿児島県は、よい例であろう。報道で、東シナ海上の中国軍の動きを見ていると、危機感がつのる。だが、南西諸島という長大な防衛ラインをどのようにして守るのか。先の大戦は教訓を示しているかもしれない。

追記
 掲載した画像は、昭和20年3月19日の呉空襲を写した1枚である。米軍文書の表紙に掲載されている。攻撃の様子は、アニメ映画『この世界の片隅で』で描かれた気がする。


参考文献
毎日新聞2024年7月23日付
「戦前リアル」NNNドキュメント2024年8月25日放送
posted by 山川かんきつ at 11:42| Comment(0) | 各都市への空襲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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