海外メディアの方が、手厳しいかもしれない。
毎日新聞7月8日付毎日新聞の記事、「排外主義なのか? 参政党の移民政策に海外メディア関心」によると、陰謀論を唱えているらしい。
一連の報道に接していて、清沢洌の『暗黒日記』を思った。日記に当時の新聞記事を切り抜いて貼り付けてあったらしく、同書でそれも読むことができる。

暗黒日記: 戦争日記1942年12月~1945年5月 - 清沢 洌, 橋川 文三
昭和18年6月20日(日)
その前夜四王田〔天〕中将というのユダヤ論を見た。小松雄道君がやっている教授連盟のパンフレットだ。いかにも幼稚で独断。一つの結論を持ち来たすために雑誌などの切りぬきを集めたに過ぎぬ。こんな子供らしい議論が感心して聞かれると思うと、日本の知識程度が嫌になる。
解説によると、その中将はユダヤ人問題の権威と見られていた。また、その関係著書も多いそうだ。
同年12月30日付毎日新聞の社説に、ユダヤ資本に関する記事がある。
一体北阿を舞台とする米英系の資本主義とソ連系の共産主義の対立はどうなるかとの疑問さへも成立しないのだ。両者を支配するものは、これ亦ユダヤ民族なのである。資本主義と共産主義は両極ではない。水と火ではない、ユダヤ民族活動の両翼をなすものなのである。ここが分らなければ米英の名において描かれる世界制覇の筋書も背景も分るはずはない。
清澤はこの社説に、感想をつづる。
資本主義と共産主義はユダヤ人活動の両翼をなすものである! これが毎日新聞―日本二大新聞の一つの社説である。日本人のメンタリチーの低劣をしめす。しかもかれの知ったか振りを見よ。
昭和19年1月20日(木)の日記に、同月22日付読売報知の記事を掲載している。
「戦争風邪も猶太謀略 毒牙粉砕の大講演会」
世界征服の野望を他民族の血の犠牲によって獲得しようと毒牙を磨くユダヤの陰謀こそは一億国民が瞬時も忘れてならぬ、大戦争が重大な段階に入らんとする現在われらは分散しつつ脈絡あるユダヤ人の執拗なこの謀略をよく認識すべきだと医道維新報国会では廿三日午後零時半から中央農業界講堂(元産組中央会館)で「ユダヤの謀略講演会」を催し、四王天延孝中将、秋田重季男爵、増田正雄氏、片瀬淡博士らユダヤ問題の権威がユダヤ謀略を衝く堂々論陣を張る。
当時、ユダヤ問題の権威がいたらしい。講演会を開くほどだから、大真面目にやっていたのだろう。読売報知の記事は、ユダヤ人の医学に関する報告がつづく。
疑わしいのだが、当時の人々は事実として受け止めたのだろうか?
秋田子談「私の担当はユダヤの医学講演で、ユダヤ人医師は次から次へと病気を造って世界へバラ撒いてゐる、こんどのイギリス風邪とかチャーチル風邪もユダヤの製造に違いなく、彼らは現在借家人の癖に大家の米英も毒殺し併せて世界中をやっつけてユダヤの天下を築かうといふ魂胆だ。これを断乎として叩き潰すのは日本人の強さあるのみです」。
よく読むと、風邪について裏付けをとっているわけではない。秋田氏の推測を述べているに過ぎない。最後は精神論で締めくくられる。聴衆は感心して聞いていたのだろう。
「権威バイアス」にかかっていたかもしれない。
■ユダヤの抱く野望
昭和19年7月12日(水)の日記は、こうつづる。
『毎日新聞』に白鳥敏夫の論文あり。例のユダヤ主義議論である。こうした精神病的人物が指導者なのだから、この戦争がうまくいくはずなし。
日記に同紙の記事が掲載されている。「ユダヤの抱く野望」と題する記事である。
しかしながらここでわれわれが深思しなければならぬことは、ルーズヴェルトをはじめ米国の指導者達の戦意は頗る鞏固(きょうこ)かつ旺盛なものがることである、米国の指導者といへば人も知る通り金権財閥即ちユダヤおよびフリーメーソンの手合である(以下省略)
ユダヤであれ、フリーメーソンであれ。雑誌『ムー』を読んでいる気さえしてくる。
筆者は中学生の頃に、同書を読んだ。そのためであろうか、陰謀論について疑ってしまう。
この手の情報に関して、免疫ができているのかもしれない。
ともあれ、当時の全国紙に掲載された記事である。大まじめに陰謀論を報じていたのだろう。読者はというと、新聞が報じるのだからと信用したであろう。それは今も変わらない。
昭和19年6月27日の日記に、清澤はこうも綴る。
不思議なのは「空気」であり、「勢い」である。米国にもそうした「勢」があるが、日本のものは特に統一的である。この勢が危険である。あらゆる誤謬がこのために侵されるおそれがある。
清澤の日記に目を通していると、当時の陰謀論は官製の匂いを感じる。
陰謀論発生の原因や目的などを調べた研究書があれば、目を通してみたい。
■関連記事
「陰謀論」
http://burakago.seesaa.net/article/481867329.html
■参考文献
「排外主義なのか? 参政党の移民政策に海外メディア関心」2025年7月8日付毎日新聞
「日曜に想う 戦前無産派候補に吹いた風」2025年7月27日付朝日新聞
『暗黒日記』 清沢洌・評論社・1995年
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