2025年11月16日

歴史修正主義とポストトゥルース

 今年は戦後80年とことで、各メディアはこぞって戦争関連の報道をした。
地元メディアは、特攻や鹿児島大空襲、芙蓉部隊を報じていたが、内容は従来通りといった印象を受けた。なかには、かなり違和感をおぼえる内容もあった。
十五年戦争のあった時代と現代は、似ているところがあるとも指摘される。

昭和元年から20年にかけての歴史は、分からないことが多い。良書を見つけられないし、簡単に理解できる訳でもない。政治や経済、軍事、思想など様々な分野を網羅しなければ、この時代史が分かったという実感すら得られないかもしれない。

 今年は「歴史修正主義」なる言葉を、新聞で目にすることが多かった。
「ひめゆりの塔」に関する国会議員の発言である。
新聞記事と議員の弁明を読んでいるうちに、歴史修正主義はPost-truthであることが良く分かった。この点に関して、議員に感謝である。

 昭和史を調べる際は、一次資料と吉田裕氏をはじめとする近代史家の本を基にしている。そのため、歴史修正主義と呼ばれる書物を目にしたことがなかった。
「ひめゆりの塔」に関する発言をした国会議員の弁明を、『月刊正ONLINE』で読んだ。

弁明
 インタビューの内容をそのまま文字化しているため、理解しづらい。言葉を拾っていくと、「憲法改正」や「東京裁判史観」、「日本の独立」が、講演内容のキーワードと思われる。この講演は、「憲法改正」に前向きな人々に向けた内容だった。

 最終目的は「憲法改正」。何を変えたいのか、内容は不明。
インタビューによると、東京裁判史観が色濃く残るのが沖縄県だという。日本軍は侵略者で米軍は解放者とする歴史観は、間違っていると主張する。

 読んでいると、議員個人の主観で話をされている。客観的な事実や資料を示さない。一冊の書物を挙げているが、それだけでは論証したことにならない。
講演会に集まった人たちは、感心しつつ聞いていたのだろう。ある意味、エコーチェンバーである。
「反対」や「反発」したと言われるかもしれないが、ずいぶん時間が経っている。講演を聞いたその場で、反論しなくては…。

 この議員。持論を展開する地を間違えたと思う。
戸邉秀明・東京経済大学教授が「政治家の歴史利用」として朝日新聞に記事を載せている。

 ひめゆりの生存者や引率教員は戦後、自分たちの被害の理由を徹底的かつ批判的に検証しました。自分たちは、なぜ何の疑いもなく日本軍に従っていたのか。県内随一の教育機関に学ぶエリートとして、軍国主義教育の先兵になっていたからでした。
痛切な反省を踏まえた歴史を検証した結晶が、彼女たちが作った資料館の展示です。


 沖縄だけでなく、広島や長崎でも、記憶の風化にあらがうように、市民の共同作業として歴史の検証が続けられてきました。自分たちに都合の悪い事実でも、直視する。それが住民目線の戦争像として、博物館の展示などに反映されてきた。そうした息の長い営みに、この発言が耐えられるはずがありません。

 沖縄戦に関する研究が進んでいるからこそ、議員の発言に対してしっかりと反論ができたといえる。戸邉先生は、こうも指摘する。

 今回のような発言をすっと受け入れる余地が生まれているように見えます。一部の政治家の発言だからと軽視すべきではありません。

歴史学者のデボラ・E・リップシュタット氏が、歴史修正主義についてこう述べる。
同氏はホロコースト(ユダヤ人虐殺)否定者と法廷で闘った学者である。

 歴史的な出来事は体験者から直接話を聞けなくなると、遠い過去の昔話になり、否定や作り替えの入り込む隙間が大きくなります。

 私たちにはファクトチェックしてくれる存在が必要です。独立し、事実を追求し精査できる活力ある報道が必要なんです。

 いまは非常に多くの政治的リーダーがでっち上げをして、まるで事実のように言い募る時代です。我々は、国の中で一番偉い人にでも、世界一偉い人にでも「証拠を示せ」「事実を示せ」と言い続けることが大切です。
私たちにできることは、根拠を要求すること。いまは善き人ほど沈黙してはいけない時代だと思います。


 デボラ氏が述べるごとく、メディアと学問の果たす役割は大きくなっていると思う。

参考文献
「ひめゆりの塔」発言訂正の真意、私は事実を語った(月刊正論ONLINE)
「政治家の歴史利用」戸邉秀明(2025年6月12日付朝日新聞・交論)
「歴史のフェイクとどう闘うか」デボラ・E・リップシュタット(2017年11月28日付朝日新聞)
posted by 山川かんきつ at 20:10| Comment(0) | 作家と戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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