2025年11月19日

ソロバン勘定 清澤洌の論考から

 外交評論家にして作家清沢洌の著作に、『現代ジャーナリズムの批判』がある。昭和9(1934)年に、同氏の講演である。

 日本主義、日本精神というものが、近来の日本に於て非常に旺んである。この結果第一に最近の新聞を観て感じますることは外交に対する批判がないということであります。
外交というものは御存知の通りに相手国と交渉することであります。
 然し日本精神の立場から言えば、相手にも五分の理窟があるというようなことを認めるということは、これは国を売る者見たように考えられるのが普通であります。
外国の交渉の場合には百%理窟がこちらにあって、相手は全然嘘であるか、全悪であるという風に解釈しないというと、それは国を愛する者ではないという風に解されておるようであります。

 清澤は当時の報道に接していて、外交政策に対する批判が無いことを嘆く。

 日本が正え方にしい、世界が悪い。こうしてお互に自慰自賛をしておる結果、そこに自身の心理状態から催眠術が行われて、自己の理論に対する研究、検討が行われないで自分たちのいうことが何時の間にか絶対に正しいという考なってしまう傾向がある。

 清澤はつづける。

 自己陶酔的な声明をし、そうして外国から揚足を取られ、狼狽ふためいて色々な弁解を試みるというような醜態はどこから来るかといえば、国民全体としてその声明の内容をかつて検討せられたことがないことから来ると私は考える。

 日本の首相の発言で、某国はだいぶご立腹の由。是非について、筆者は分からない。これまでの内閣が曖昧にしてきた部分を、首相が発言してしまった。その責任は、首相にある。就任早々、ハードランディングする必要は無かったのではと思う。

 彼の国に、政府に対して批判的なメディアは無い。政治をつかさどる人たちは、自分たちが絶対正しいという考え方の傾向が強いと思われる。その上、巨大な市場を持っている。
発言する前に、利害のソロバンを弾いても良かったかもしれない。
和解するまで時間がかかりそうだ。

 清澤は述べる。

外交問題ほど忍耐を要する問題はないのであります。

参考文献
「現代ジャーナリズムの批判」(『清澤洌評論集』所収・岩波文庫・2013年)
「自民保守のゆくえA」2025年11月17日付朝日新聞
「明治期にもあった日本人ファースト」2025年11月9日付朝日新聞・日曜に想う
posted by 山川かんきつ at 17:38| Comment(0) | 作家と戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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