2024年12月10日

国策スローガンが おもしろい

SNS上で、「ザイム真理教」なる言葉が流行っているらしい。
なんでも、消費税率を上げることに執着している政治家や財務省の思惑を揶揄する表現の由。

ザイム真理教 - 森永 卓郎
ザイム真理教 - 森永 卓郎

 この言葉、経済評論家の森永卓郎著『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』が源のようだ。また、財務省の公式X(ツイッター)に批判コメントが寄せられているそうだ。

 財務省といえば、消費税を上げるのに躍起といったイメージを受ける。批判的なコメントを送る気持ちは十分にわかる。消費税を上げる前に、所得税の累進税率の見直しなど考えるべきは他にもありそうなものを。また、税金の使われ方も見直さなくては。
ただでさえ、国民に負担を強いてばかりではないか・・・。そういう感情が渦巻く。

 先だって目を通した書物に、『黙つて働き 笑つて納税 戦時国策スローガン 傑作100選
黙つて働き 笑つて納税 戦時国策スローガン 傑作100選』を読んだ。おもしろかった。


黙って働き 笑って納税」は、昭和12年に登場したらしい。
他にも、「働いて耐えて笑って御奉公」(昭和16年)、「まだまだ足りない辛抱努力」(昭和16年)。
厚生労働省と財務省のエリート達は、今もこの考え方を持っているかもしれない。

 こんな標語もある。
足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」(昭和17年)
 これは、当時の国民に向けて発せられているのだが、財務省の人たちに届けたい標語だ。

 考えさせられた標語もあった。

国策に理屈は抜きだ実践だ」(昭和16年)

 川内原発再稼働や馬毛島などの新聞記事に目を通していると、まさに標語の通りである。
妙に納得した。

 同書に、思わず笑った標語があった。

早く見つけよ敵機とムシ歯」(昭和17年)

 文章を書く際、「並列」というのがある。この標語は、あえて崩している。作者に文章力とパロディさえも感じる。
 同書の作者も述べる。

 なんで虫歯なのか。(途中省略)「敵機」と「ムシ歯」を並べたところに作者の豊かな想像力を感じないではいられない。

 同書に掲載されている標語に目を通していくと、すべて国民に負担を強いるものばかりである。戦時中の標語が、そのまま現代に当てはまるのではないか。
国会で論戦が始まったらしい。これまでのように、チャチャと議論、サクッと採決という訳にいかない。「決められない政治」というフレーズが復活するかもしれないが・・・。


参考文献
『黙って働き 笑って納税 戦時国策スローガン傑作100選』(里中哲彦・現代書館・2013年)
『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』(森永卓郎・三語館シンシャ・2023年)
posted by 山川かんきつ at 23:22| Comment(0) | 市井だより | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月04日

エコーチェンバー

 兵庫県知事選挙結果は、マスコミにとって想定外だったらしい。新聞やテレビなどで、さかんに報道されている。「SNS選挙」と題して、マスコミはネット情報の功罪を報じる。

 出口調査によると、SNSを主な情報源とする若い世代が斎藤氏を支持。投票率が大幅に上がった。投票率の向上と番狂わせの投票結果は、注目すべきだろう。若い世代が選挙に参加すれば、従来と異なる結果が出るのがわかった。

 報道に接していると、SNS上の情報の接し方に問題があるらしい。日本経済新聞社説「SNS選挙の功罪突きつけた兵庫知事選」は、こう述べる。

 SNSの情報はアルゴリズムの性格上、自分の好みに偏りやすく、偽情報対策が一層重要になる。

 「フィルターバブル(filter bubble)」を述べているようだ。筆者は同じ内容の情報ばかり接していると、飽きてしまう。他の意見や考えを探す性格をしている。どうもヘソが曲がっているようだ。
その他の新聞をめくると、「アテンション・エコノミー」や「エコーチェンバー」など、初めて目にする外来語が頻出する。理解が追いつかない。

 手持ちの辞書を開くが、当然のごとく記載がない。ネットで用語の解説を調べている。
理解の追いつかない言葉を調べていると、「エコーチェンバー」に目がとまった。

Echo Chamber

 図書館でエコーチェンバーに関する本を探したが、見当たらない。ネットで検索して用語の解説に目を通した。ウィキペディアが分かりやすかったため、引用した。

@自分と似た意見や思想を持った人々の集まる空間内でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や思想が肯定されることによって、
  それらが世の中一般においても正しく、間違いないものであると信じ込んでしまう現象。

A閉鎖的な情報空間において、価値観の似た者同士が交流・共感し合うことで、特定の意見や思想が増幅する現象。

Bエコーチェンバーの閉じた情報環境の内部にいる人間は、何度も同じ情報を見聞きするため、怪しい情報でも信じやすくなる。
 また、自分と異なる考え方や価値観の違う人達との交流がなくなり、自分と異なる意見やデマを訂正する情報が入らなくなる。


 ひと通り読んでみた。エコーチェンバー現象は、ソーシャルメディア上のみで発生するとは限らないのでは? という疑問がわいた。

 筆者の知り合いに、某政党の熱狂的な支持者がいる。党員か否か、それは不明。
選挙前ともなると、熱を帯びた調子で連絡が入る。他党の話になると、敵のような話しぶりになる。その党に対して熱烈な支持を示す一方で、排他性も感じる。連絡があると、はぐらかしつつ話を聞いている。

 昭和初期に目をやると、エコーチェンバーと似た現象を見いだせそうだ。
情報が統制され、政府と軍部が発表する内容だけが市民たちに伝わる。
昭和20年3月19日以後の鹿児島日報に目を通していると、空襲に関する情報が市民たちに伝わっていない様子がわかる。とくに4月8日の空襲で、市民たちは不安を増幅させたようだ。情報がないためだろう、流言飛語が盛んに飛び交っていたようだ。
新聞紙上で、デマを信じないよう促す記事が登場する。一度ではない。

 エコーチェンバーやフィルターバブルなどの現象は、SNS特有と断定して良いのだろうか? その種は、集団や組織、個人のなかに宿しているかもしれない。筆者はまだ、結論をもたない。
これから、社会学者を始めとする専門家が研究発表するだろう。それを待ちたい。

参考文献
「SNS選挙の功罪突きつけた兵庫知事選」(2024年11月19日付・日本経済新聞社説)
「エコーチェンバー現象」(ウィキペディア・2024年12月3日閲覧)
posted by 山川かんきつ at 17:35| Comment(0) | 市井だより | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月06日

推し活は宗教に似ているらしい

「推し活」は、宗教に似ている面があるらしい。毎日新聞が、「宗教に類似 推し活研究」で報じていた。2024年10月14日付である。記事は次のように始まる。

 アイドルやスポーツ選手、アニメやゲームなどさまざまなジャンルで広がる「推し活」。熱狂的なファンの集団は「ファンダム」と呼ばれ、その心理を利用した経済活動が行き過ぎた消費を生み出す例も少なくない。

 「ファンダム」とはなんだろう? 手持ちの国語辞典に掲載されていない。
ネット上で検索すると、「特定の対象への熱狂的な愛情とそれを共有するコミュニティをさす」とある。
「ファンダム」は、「fan kingdom」の造語らしい。直訳すれば、ファンの王国。
「ダム」とあるから、貯水を目的とした構造物をイメージしていた。ファンを溜め込むといった意味だろうかと考えたりもしたが、まったく違った。

 「推し活」を、心理学の視点から研究する学者さんがいるそうな。関西学院大学准教授の柳澤田実さん。

 推し活をする人は自らの推しを「神」、グッズを並べた自宅の棚を「祭壇」と呼ぶなど宗教と同じような言葉を使います。

 YouTubeで公開中の漫画、「ラブ恋漫画」を視聴している。同漫画に、「推し」や「推し活」なる言葉がよく出てくる。お気に入りの漫画家の作品を「布教用」に持ち歩くキャラクターがあった。柳澤先生が述べる「宗教との類似性」は、頷くところがある。

 先生は分析する。
「推し活」に、特定のものを神聖視し、献身する人間の心理があるらしい。また、人間は金銭に還元できないものに「神聖さ」を感じる心理もあるそうだ。
鹿児島県内の歴史ある神社を訪れると、「神聖さ」を感じる。例えば、指宿神社は巨大な楠に囲まれている。また、日置市の大汝牟遅神社近くに、巨大な楠が何本もそびえる森がある。三国名勝図絵は「古樟樹」と記している。西行法師の句を彷彿とさせる場所である。

 何ごとのおわしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる

 これらの神社の森は、聖なる価値があるといってよい。最近の新聞記事で知ったが、明治神宮外苑は開発されるそうだ。都心の一等地にあるから、「聖なる価値」よりも「算盤的な価値」が上回っているかもしれない。

 西澤先生はつづける。
 推し活でも、コンテンツを提供する側が単に時間とお金を奪って消費させ続けるのではなく、人びとが推しを通じてもっと大きな価値を共有できるような仕組みを作ることが必要なのではないでしょうか。

 このブログで、推し活について2度ふれた。いずれもマーケティングからの視点だった。
記事を書いた記者は、こう結ぶ。

 私たちメディアも推し活の裏側に目を向ける必要があると感じた。

 メディアの傾向として、エンタメ化して報道する場合がある。「推し活」を社会学や行動経済学などの研究もおこなわれるかもしれない。

「推し活」に関する記事を読み進めると、以前からあった現象のように思う。「推し」や「推し活」なる言葉が登場する前は、「マニア」や「コアなファン」と、表現していたように思う。「推し」や「推し活」などの言葉は、これから定着していくのだろう。

関連記事
 「概念推し」
 http://burakago.seesaa.net/article/505507096.html

 「オシノミクス」
http://burakago.seesaa.net/article/505259866.html

参考文献
「宗教に類似 推し活研究」 毎日新聞2024年10月14日付
posted by 山川かんきつ at 17:01| Comment(0) | 市井だより | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする