
大図鑑シリーズ バイアス大図鑑 (Newton大図鑑シリーズ) - 池田まさみ, 高比良美詠子, 森 津太子, 宮本康司
『Newton バイアス大図鑑』が記す。
記憶にまつわるバイアスに、「事後情報効果」と「虚記憶」があるそうだ。
■事後情報効果
人間の記憶は、後から入ってきた情報によって変化する。
質問の仕方によって記憶が変わってしまう。
事件発生から時間が経つと、捜査が難しくなるのは記憶が薄れるだけでなく、事後情報効果の影響が出てくるため。
■虚記憶(偽りの記憶)
人間は経験していないことを、まるで経験したかのように思い出す可能性がある。
たとえば、刑事事件で犯人でないにも拘わらず「自分が犯人かもしれない」と考えて、罪を認めてしまう「虚偽自白」が起こることがある。
これは、取調官が事件のストーリーを何回も話すことで、聞かされた人のなかで、偽りの記憶がつくられてしまう。
「事後情報効果」と「虚記憶」を読んでいるうちに、空襲体験談をおもった。
鹿児島県内の体験談に接していると、「?」と違和感をおぼえる瞬間がある。
たとえば、旧国分市で昭和19年夏ごろ、1機のグラマンから機銃掃射に遭ったとする体験談を目にしたことがある。
困りました。
事実とするなら、鹿児島県の初空襲の記述を変えなければならない。
薩摩半島と大隅半島にあった航空基地に対する初めての空襲は、昭和20年3月18日。
筆者はこの体験談を評価できないため、保留にしている。
おそらく、その他の空襲体験の記憶と混同しているのだろう。
なにせ、終戦から数十年経ってからの聞き取りのため、記憶が曖昧になるのも無理はない。
貴重な証言もある。
南日本新聞で連載中の「語り継ぐ戦争」に、阿久根市在住の方が語る体験談は貴重である。
昭和20年5月13日に、阿久根町(当時の町名)で列車に対する機銃掃射を目撃。自身の足を機銃掃射で負傷したとする体験談である。
「昭和20年5月13日」と「出水航空基地」に念頭に置くと、この体験談は貴重である。
これまで採録された体験談を検証し、評価する必要があると思う。
新聞記事の戦争体験談に目を通していると、話者の話をそのまま掲載している。それもひとつのやり方であろう。なかには違和感をおぼえる話もある。
体験談とともに、裏づけ資料や背景なども記す必要があるのでは、と感じている。
また、人間は無意識のうちに、「記憶のバイアス」の影響を受けていることも頭に入れておく必要があるように思う。
80年も前の体験を聞き取る作業は、簡単なものではない。
■参考文献
『バイアス大図鑑』(Newton・大図鑑シリーズ・2024年)